「そー、なんかその男の子の親友が謎解きが好きらしくてさ、動画ごとにキーワードもあって……SNSやらねえから賭けで……」

「ちょっと他の動画も見せてほしい」

説明してくれている友達の言葉を遮って言うと、友達は焦ったような俺の様子に何かを感じたのか「お、おう」とスマホを渡してくれた。

「ありがとう」

礼だけ伝えて、震える指先で画面をスクロールするとそこには既に何十本もの動画がアップされていた。
心臓がばくばくと激しく不穏な音を立て始め、ぶわりと全身から変な汗が噴き出てくる。
落ち着け……俺。落ち着くんだ。何度も呪文のように唱えながら一番古い動画まで遡って、タップすると、ポップな音楽と共に遥の声が聞えてきた。

『初めまして。俺はある人に見つけてほしいという気持ちとある約束を果たしたくてこのアカウントを作りました』

話をしている彼の声は明るいはずなのに少し震えている。ざわざわと胸騒ぎがして、ごくりと生唾を呑んだ。

『俺の命はあと少しで尽きてしまいます。病気です。12月に見つかってそこで余命宣告されて。だから、俺が死ぬまでにその人がこのアカウントを見つけてくれたら俺が死んだ後にその人にあるものを渡したいと思います。もし、見つからなかったらそれは俺が墓場まで持って行きます。このアカウントはその人に向けたことしかないからみんなには分かんないだろうけどよかったら拡散してー。まあ、アカウント名にもあるようにそいつSNSとかやってねえから見つけてもらえる確率は正直低いと思ってるけどさー、人生最後の賭けだと思って』

ざあっと全身の血の気が引いた。
だって、今頭の中に流れ込んできた情報はどれも信じがたいものだったからだ。
遥が、病気だと……?
12月って……引っ越す理由って入院するからだったのか?
言われてみれば、最後に遥の姿を見た写真で彼は学校にいなかった。ただ、卒業証明書と花を持っていただけだった。
俺はなんでその時、不思議に思わなかったんだ。
あれだけ明るくてフレンドリーで人懐っこいやつが卒業式に友達と写真も撮らずに過ごすだろうか。
学校に行けない状態だったんだ。俺は、なんで今になって気づくんだよ。

『俺の居場所はね、この動画に隠されてるよ。まあ、それもその人しかわかんないだろうけど。つーか、アイツもわかんのかなあ。じゃあ、ばいちゃ』

目頭が熱くなって、じわりと視界が歪んで動画に映っている遥の顔がよく見えなくなっていく。

「おい、小日向。大丈夫か?」

友達がそんな俺を見て心配そうに声をかけてくれるけれど、俺はその言葉に頷くだけで精一杯だった。