「んじゃあ、俺がいつかお前に謎解きゲーム作ってやるよ」

得意げに鼻を鳴らして、にいっと白い歯を覗かせた。

「頭の弱い遥にはちょっと難しいんじゃない?」

遥はそんなに頭が良くなくていつもテスト前は俺に泣きついてきている。まあ、そんなところも遥らしいけど。

「お前なー、俺だって本気出せばできるっつーの。つーか、お前謎ばっか解いてないでそろそろ時代に乗ってSNSやったら?」

遥が自分のスマホの画面をトントンと軽く叩きながら言う。

「いや、俺はSNSとか興味ねえし」

言葉通り、俺はSNSをしていない。唯一、しているといえばメッセージアプリくらいだ。

「だよなー。碧はやんねえよなー」

「ダウンロードしたとしても開かないな」

「意味ねえじゃん」

「だからしてねえんだよ」

特に誰かの生活に興味があるわけでもなければ、自分の生活を誰かに共有したいと思うこともない。
今はSNSが主流だから時代遅れと言われればそうなのかもしれないけれど。

「やってみたら楽しいのに。あ、そうだ。お前、有田(ありた)さんから告白されて断ったんだって?」

思ってもいなかった話題に、げっ……と顔をしかめた。
遥はこういう恋愛話に厳しいからまたいらない説教とかをされるのだ。

「あ、またそんな顔して。有田さんなんて学年一の美人なんだぞ?男子全員の憧れだぞ!?」

俺が何も言わないでいると、遥が続けてそう言ってきて俺の肩を掴んでぐらんぐらんと揺らす。

「好きとかよく分かんねえんだよ」

恋とか愛とかそんなのよく分かんねえし。
つーか、まだ中学生なんだから付き合うとか早くね?なんて思っている俺はまだ子供なんだろうか。

「はあ、俺はお前の将来が心配だわ。彼女できたら報告しろよな」

何故か深いため息をこぼしながら、ぽんぽんと俺の背中を軽く叩く。

「はいはい」

「お前、絶対しないつもりだろ」

「するって」

「してくれなかったら俺泣くからな!?ていうか、彼女よりも好きな人できたら報告しろ!」

「わかったって。つーか、お前はどうなんだよ」

そういえば、遥の恋愛事情を俺は何も知らない。興味がなかったから特に聞くこともなかった。
遥は俺よりも明るいし、フレンドリーなやつだから女の子からはモテているはずだ。
だけど、彼女ができたとかそういう話は聞いたことがない。
いつも放課後は俺と過ごしてくれるし。

「……俺はお前と違ってモテねえから何もねえよ!嫌味か!この!」

遥が俺の髪の毛を犬と戯れるかのようにわしゃわしゃと掻き回してくる。

「そんな怒んなって」

俺はそんな遥に抵抗しながらもけらけらと声を上げて笑っていた。
何気ない時間が、お前と過ごす時間が、ただ楽しかった。
だから、永遠に続いて欲しいと柄にもなく願ってしまう。
来週になったらお前は俺の隣からいなくなってしまうんだ。
そう思うと、心にぽっかりと穴が空いたような寂しい気持ちになって胸がぎゅっと締め付けられて苦しくなった。

そして、遥は本当に翌週になると引っ越してしまい、俺の隣からいなくなった。