「舞弥、学校へ行くなら俺たちも連れて行ってくれないか」
「なんで? 少しでも休んで傷治した方がいいんじゃない?」
翌朝、舞弥が昼食用のお弁当と朝ごはんを作っていると、昨日より一回り小さい子たぬき姿の壱が寄ってきた。
物理的に幅を取らないように気をつかっているらしい。
てちてちと歩いていて可愛いな、と舞弥は思った。
「それはそうなんだが、舞弥には命を救われたから、礼代わりに護衛したいんだ」
「そんな大仰な。でも、そうだなー、カバンとかにつけられるサイズになれるんなら来てもいいよー」
――舞弥は、無理せず休んでなよ、という意味でふっかけた話だが、なんと壱と玉は叶えてしまった。
「……なんか可愛いカバンになっちゃったね」
「ふふふ。マスコットへの変化くらい朝飯前だ。人間はご飯作るの上手だから、俺も護衛することに異論はないぞ」
「食い意地張ってるだけでは?」
舞弥の学校カバンには、白と黒のぽんぽんとした小さな毛玉型のキーホルダーがついていた。
壱と玉が変化した姿である。
この恰好でも喋ることは可能なようで、顔や口は見えないが舞弥と会話が成り立っていた。
道すがら、舞弥は念のために言っておく。
「学校では喋らないでね?」
「無用な心配だ。そんなヘマをしたりはしない」
えへん、と玉が胸を張っている様が見えるようだ。今は小さな黒い毛玉でしかないが。
「舞弥、要求してしまうようで申し訳ないが、玉の分のお弁当を作って来てくれているなら、早めに渡しておいた方がいい。授業中にお弁当をつまんだりしてしまいそうだ」
朝、壱と玉が同行すると知った舞弥が余分に作ったことが壱にはバレていた。
舞弥はちょっと恥ずかしくなる。左手に持っているお弁当バッグに視線をやった。
「食い意地でしかなくない? まあ、玉、どういう方法で食べるかは知らないけど、このお弁当バッグの中の上に乗ってる箱は玉と壱の分だから、好きに食べていいからね。食べていいって言っても、人目につかないところで、人間に見つからないようにだよ?」
「ふ。我ら闇に生きる妖異だ。人目を忍ぶのは簡単」
「壱―、玉って中二病? て、意味わかる?」
「わかる。玉はまだ子供なんだ」
昨今のあやかしは、人間の世界にも通じているようだ。
「壱と玉って同い年じゃないの? あ、妖異に同い年もなんもないか?」
舞弥が自分で答えていると、玉がふふんと鼻をならした。