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「じゃあ玉、学校行ってくるね」
「おう、気ぃつけてなー」
明くる月曜日、登校する舞弥を、たぬき姿の玉が見送った。
玉は、今日はバイトがない日なので、部屋の掃除をとことんする日と決めていた。
「ふっふーん、ふんふんふーん」
最近テレビで知った曲を鼻歌で歌いながら、たぬき姿で拭き掃除をしていく。
ひとの姿になってもいいのだが、もし誰かに見られたら大変だと思い、ある程度妖気で姿を消せるたぬき姿でいることが多い玉だった。
「なー壱よぉ、いい加減腹減らねえの? 一か月も飲まず食わずだぜ」
掃除をしながら眠ったままの壱に話しかける。
「まったく……神社も放っておいてよぅ。参拝客もたまにいるけど、手伝いに行ってる舞弥が密かに人気になってんぜ? いいんかお前」
「よくない」
「だろ? だったらさっさと――あ?」
なんだろう、今、会話が成立した気がした。
胡乱に声のした方に顔を向けると、たぬき姿で毛繕いをしている壱がいた。布団の上に起き上っている。玉の目はまん丸になった。
「い、い、いぢ―――!?」
「ああ、おはよう」
「お、おはよう――じゃねえよボケぇえええ!」
「うん、怒りたいことはわかるから、ちょっと行って来る」
「ったりまえだ! さっさと行ってこい!」
雑巾をぶん回す玉に見送られて、ひとの姿をとった壱はアパートを飛び出した。
「舞弥ぁ、おめでとうだぞ……!」
ひとりになった玉は、にこにこしながら次から次へと涙をあふれさせていた。
舞弥の学校へ走る。一か月寝たままだったので体は少し強張っているが、壱には特段問題ではない。
早く、早く、愛しい舞弥のもとへ。