「しょうき?」
「なに、それ……」
鈴と、舞弥が声を重ねた。
すっと、舞弥の隣に立つ壱の空気が冷えた。
「バカかお前。腹減っても瘴気食うなよ」
「く、空腹だったからじゃありません! そのときはそうするしかなかったのです!」
壱に言われたすずは怒った。……すずが怒ったのは初めてだった。
「壱? 瘴気ってあれだろ? なんか悪い気の塊みたいな……食べれるもんなのか?」
玉が首を傾げながら言うと、壱は厳しい目を向けた。
「絶対に食うな。瘴気ってのは、病気を起こす毒の空気だ。山や川から生まれることが多い。なんでそんなもん食った。お前も長く生きてるんだから悪いことくらいわかるだろ?」
「……お嬢様の前に、私を拾ってくれた方が、瘴気に取り込まれかけたのです。わたしはそれを自分の中に取り込むことで阻止しました。……ということがあったのです……」
――すずはまた、誰かのために傷を負っていたのだ。
瘴気が体をむしばむまでに。
「わたしは元々、堕ちた巫女の使い魔でしたから……悪いこともたくさんしました。償いのためならなんでもするつもりでした」
罪悪感。それが今、すずが壱の前に姿を見せた理由だった。
悪いことをたくさんした、償いのためならなんでもする――託された想いを届けるためなら、なんでもする。
舞弥は胸が痛くなった。望んで使い魔になったわけでもないだろうに、そんな思いにさいなまれて今まで彷徨っていたなんて……。
そして、唇を噛んでから口を開いた。
「今償うべきなのは私と壱です。たぶん私なら……なんとか出来ると思います」
「貴女様が……ですか?」
すずの声は、だんだん弱くなっている。限界が近いのかもしれない。
「壱に、傷を治すやり方はするなって言われてますけど、……やるなと言われるくらいなら、私にその力があるということだと思います」
「舞弥っ、それは駄目だ」
声をあげて阻止したのは玉だった。
「それは反動が大きい。治療したモノは舞弥に跳ね返ってくる。舞弥自身に耐性がないとやっちゃいけないやつだ」
珍しく静かに怒っている玉だが、舞弥も簡単にはうなずかなかった。
「そ、そういうものかもしれないけど、放って置いたらすずさん死んじゃうんだよ? たくさんの人に想いを託されて、今までどうにかしようとしてきたすずさんが、こんな形で死んじゃうなんてダメだよ」
「駄目なのもわかるけど、俺には化け猫より舞弥の方に天秤が傾くんだよ。壱だって同じだ」
「――っ、自分がよければほかは――みたいな考え、したくない」
「これはそういう話じゃないだろっ」