「人間! 大変な思いをしているというのに、俺たちにご飯を恵んでくれて感謝する! この恩は必ず返すぞ!」
玉が涙を流しているので、舞弥はびっくりしてしまった。
「ぎょ、玉? いや、私それほど大変な思いしてるわけじゃないよ? 大丈夫大丈夫、とりあえず泣き止んで?」
「感激の涙を止めることは不可能だ。人間、世話になる間はなんでも申し付けてくれ。なんでもするぞ」
「いや、玉の姿をアパートの人やご近所さんに見られたらまずいから、出来たら大人しくしていてもらえてらな~、なんて」
「わかった! 目立たないようにしよう!」
大声で言っていることが目立つことだと言うのだ。
「玉、私一人暮らしってアパートの人は知ってるから、大声で喋るのもやめてほしい。男の人と一緒だなんて知られたら、おじーちゃんが乗り込んで来ちゃうから」
「はっ! マタギの大家さんか。それは大変だ。大人しくする」
玉が、ちょこんと座りなおす。可愛いかった。
「舞弥、俺からも礼を言わせてくれ。助けてくれてありがとう。世話になっている間、注意することはあったらなんでも言ってほしい。俺たちも気を付けるが、人の感覚はすべてわかるものではないから」
「うん、都度言っていくことにするね。――改めて、壱、玉、よろしくね」
「こちらこそよろしく頼む、舞弥」
「よろしくお願いするぞ、人間」
――こうして、一人暮らしの女子高生の部屋に転がり込む形となったたぬきのあやかし二匹。
舞弥は、久方ぶりに誰かと一緒に暮らすことがなんだか嬉しかった。