「………」

――推測は出来ても、千年前の壱がどんな性格だったか、過去に戻るすべなんてない舞弥と玉が知ることは出来ない。

だから、どうしてそんな答えをしたのかもわからない。

今、ここにいる壱の口から聞く以外は。

壱は軽く瞼を伏せた。

「……俺の古馴染みに、己のたった一人に人の子を選んだ神がいた。だが、正式に夫婦となる前に相手は何も言わずに突然姿を消して……。数千年前のことだ。そいつはつい最近まで、彼女に何があったか知らなかった。今はまあ、穏やかにやっているが……彼女がいなくなったときのあいつは大変だった。本当に。今にもすべてを投げ出しそうで……。神格がそんなことやってしまったら、荒御魂になってバランスも崩れかねない……。それを割と近くで見ていたから、自分が特別を作る気にもなれなかった。神格ではないが、神格に匹敵すると言われる者として」

「………」

(古馴染みの神? って、もしかして……)

心当たりのある存在が、舞弥にはあった。

――そういえば、美也が何故神様の恋人で、巫女なんてものになったのか訊いていなかった。

それがとても、当たり前のような気がしてしまっていて。

神様の隣に立っているのが中学の頃の友達だ、なんて、いくら霊感がある舞弥だってすぐには納得出来なかったはずなのに。

壱は続ける。

「俺たち七翁がもっとも嫌うのは、己の所為で世界に影響が出ることだ。俺たちの存在ひとつで影響があることを認識しているし、言い方はあれだが、神格ほど我がままにもなれなくてな」

それでは美也の彼氏は我がままということだろうか。と思った舞弥だが、小説とか漫画みたいな、物語の中の神様は結構自分勝手な描き方をされることが多いな……とも思った。

「……馴染みの神格様が、反面教師になってしまっていたのですね……。では尚更たずねたい。何故、今になって特別を作ったのです?」

ドキッと、舞弥の心臓が跳ねた。それは舞弥も知りたかった。

「それは――」

答えようとした壱だったが、舞弥が見上げているのに気づいた途端、顔を赤くさせてばっと逸らした。