「周りに女の人たくさんいたんだったんだっけ……」

「そんなんじゃないから舞弥――っつかお前も舞弥に誤解されるように言うんじゃねえよ! そいつら勝手に近くにいただけだ! 舞弥はやっと見つけた俺の宝なんだよ!」

壱が舞弥を抱きしめながら叫ぶと、玉は「きゃーっ」と顔を手で覆い、女性は目じりを下げた。

「その通りです。壱翁様の周りには勝手に、たくさんの女性がいました。ですが誰も壱翁様の気を引くことは出来ず、ましてや宝だなんて……。……そうやって、想いが募ったのです。振り向いてもらえなかった、悔しいという、逆恨みの想いが、壱翁様には蓄積していました。色男のさがかもしれませんが、壱翁様は扱いを間違われたのです。存在を、存在として扱わなかったという……」

「……存在を、存在として扱わなかった……?」

舞弥の疑問に、女性は軽くうなずく。

「ええ。平たく言えば、『無視』されたのです。その目に留めず、気にも留めず……呪ったわたしが言うのもなんですが、断る、ということすらされなかったのです。……フラれたとしても、言葉ひとつで昇華されるのが感情というものです。あやかしも、人間ほど敏感ではないでしょうが、感情はあります。壱翁様が今、貴女様を大事に思っているのも『感情』があるからです」

「……」

舞弥は黙って聞いていた。

壱は、放っておいたんだ。自分を慕ってくる者たちが恨みの念を持ってしまうくらい、それは残酷な『返事』だったのだろう。

「『壱翁ゆえ、返事など出来なった』、というところでしょうけれど……」

女性がつぶやくように言った。

舞弥は眉根を寄せて尋ねた。

「それは……どういう意味ですか……?」

「壱翁様は、いわば偶像でした。あやかし七翁の最初の文字を司るものとして、高潔であらねばならなかったのです。憧れられ、崇敬され……。ですが我こそはと思う方もおりました。おりましたが……壱翁様に袖にされることすらなく散った数多(あまた)の想いを、わたしは託されてきました。わたしは元々、堕ちた巫女の使い魔として誕生しましたので、呪いは専門だったのです」

「……壱はその『偶像』であることを守るために、女性たちに振り向かなかった、と……?」

「それはわたしも知りたいところです。――千年前、わたしは壱翁様に尋ねました。『どうして特別を作らないのですか』と。壱翁様はこう答えられました。『教える義理はない』。……この返事で、わたしに想いを託してきた方は満足しなかった。そのため、呪いは発動したのです」