「ああ」

壱のうなずきを聞いて、舞弥はこぶしを握った。

いつもは真っすぐアパートに帰るところを、道を変えて歩く。そしてやってきた先は――

「……美也ちゃんの彼氏さん、これには関わらないんだよね?」

「らしい」

「留守にするから好きに使え、と言われているから大丈夫だ」

――龍波神社。

榊が龍神として鎮座する神社だ。

しかし神は留守。

「な……なんか怖い感じ……」

玉が持ってきた懐中電灯の明かりを頼りに階段を上るが、びくびくする舞弥。

階段の下の道は街灯があるけれど、それより上には灯り一つない。

「榊が保護しているあやかしたちにも、手出し無用と伝えてある。気にせず話が出来る。……舞弥?」

「……えっ! な、なに……」

びくびくしていた舞弥が、壱に呼びかけられて肩を跳ねさせた。警戒していたところにいきなり名前を呼ばれて驚いた。

「大丈夫か? ――」

玉が心配して声をかけたところ、

「玉、左に一歩ずれろ」

「? うん」

壱が遮るように言ってきたので、言う通りにした。

人の姿になった壱が舞弥と玉の間に現れる。

「舞弥、失礼」

そう言って、壱が舞弥の肩に手を回した。

ふっと、舞弥の力が抜ける。

それを見ていた玉、きゃーっと顔を手で覆った。

「い、壱っ。俺に対して舞弥への独占欲出すなよっ。ちょっと恥ずかしいぞっ」

人としての見た目が成人に近い玉がたぬき姿のノリのそれをやると、なんだかアンバランスだった。

「むしろお前以外警戒する対象もいないんだがなあ……」