「………」
日曜日の午後、カフェでバイト中の舞弥は緊張していた。
「舞弥ちゃん、どうかした?」
こそっと、同じくバイト中の永利が声をかけてきた。
舞弥の様子がいつもと違うことに気づいたのだろう。
「あっ、いえ。なんでも」
「それにしてはちょっと怖い顔してるよ? 接客業は笑顔じゃなきゃ」
心配そうな顔で言われて、舞弥ははっとした。すみません、と永利に謝って、気持ちを切り替えた。
いけない。今は仕事中だ。それに、壱が言っていたことは終業後に始まるのだ。今から神経を削るのは得策じゃない。
――バイトを終えた舞弥を、今日は非番だった玉が迎えに来ていた。人の姿で通りにいたので人目を引いている。
「玉」
「あ、お疲れ舞弥。……大丈夫だったか?」
「う、うん……ちょっと緊張しちゃって……。壱は?」
「ここだ」
と、玉が肩から下げているバッグについている白い毛玉から声がした。
「……来たよ、玉の言ってたお客様」
玉と並んで歩き出すフリをして話しかける。
「……あそこだな」
玉が目だけでやった視線の先はカフェの出入り口で、すっと影が動いた。舞弥もそれを把握しながら前を向いた。
「静かな方でいつも本読んでるイメージしかないんだけど……嫌なこと言われたこともないし……」
「あの人物が実在するのか、あいつが作り出した存在なのかにもよると思う」
「どういうこと?」
「実在するのなら、舞弥が見てきたほとんどは普通の人間で、部分的に化け猫が姿を借りているだけとなるだろう」
「静かな方、っていうイメージも、普通の人間のひとに向けたもので、壱を呪った者とは違うってことか……」
「そうだな。だがまあ……ここまではっきり尾行(つけ)てくるようだから、今あの姿をとっているのは対象で間違いないだろう」
「じゃあ……話した通りに行けばいいんだね?」