「? 何かあるの?」
玉の手足を掴んだままの舞弥が問いかける。
「ちらっと話してあることだけど、俺を呪ったやつに、俺がここにいると知られると思うんだ」
「もう知られている、じゃなくて?」
「先ほど、久々に壱翁としての力を使ったから、俺がここにいるとわかるあやかしにはわかってしまうんだ」
先ほど、とは、玉の件でだ。
そのことがわかった玉は顔をしかめる。
「……すまねえ、壱」
「構わない。いずれは蹴りをつけなくちゃいけない相手だから」
「壱が呪われていたっていうのは前に聞いた程度でしか知らないけど……強い人なの?」
「いや、あやかしの個体としては弱い方だ。弱すぎて、問題なんだ」
「? どういうこと?」
「俺は、地位そのものがあやかしだが神格に近い。だからな、強いもの、大きなものに対しては攻撃の効果も出るんだが、弱いとむしろ的に当てられないというか……小回りが効かないというか……」
壱自身、はっきりと言葉に出来る現象ではなく、言葉を探しながら話した。
「小さな虫ほど退治するのが難しい、みたいな感じか?」
玉の言葉に、壱はうーんとうなった。
いくら面倒な相手でも羽虫に例えていいものかと悩んだが、まあこっちは迷惑かけられまくっているし、夏の夜の羽虫みたいなものだし、いっか。となった。
「そうそう、そんな感じだ」
あっさりうなずいた。
「化け猫って、強くはないけど厄介ってこと?」
「そうだ。だからまず、俺がここにいることを嗅ぎ付けられる前にこちらから行こうと思う」
「えっ」
「『壱翁』の力を取り戻したからな。それにある程度、誰に化けているかも見当はついている」
「まじかっ」
舞弥が手を離していたので、玉は舞弥の頭の上にしゅたっと立ってこぶしを握った。
「猫は気配を消すのが上手い。だが、姿を消すことは出来ない。だからこそ――」