「舞弥ちゃん……? 大丈夫?」
舞弥の様子がおかしいことに気づいた美也が声をかけると、舞弥ははっとして美也を振り返った。
「あっ、うん、大丈夫」
「……何かあった?」
しかし大丈夫なようには見えない美也は声をひそめて問いかける。
重ねて言われて、舞弥は観念した。
「あー……私、弟、いたんだよね……。両親と一緒に、事故だったんだけど……」
「………」
懐かしそうな、哀しそうな顔をする舞弥の隣に、美也が立つ。
「記憶にある姿が、ちょうど開斗くんくらいの頃で……ちょっと、ね……」
何かを隠すように笑みを見せた舞弥の両手を、美也が握った。
「うん……」
美也はそれしか言わない。目線も、自分の手に落としている。
「………」
何も言われないこと、訊かれないことに、舞弥は唇を噛んだ。美也が目の前にいる。でも、舞弥の涙を見てはいない。今なら……少しくらい、泣いてもいいだろうか……。
心の中の思い出にいる、大好きな家族を想って。
「……美也も朝倉舞弥も、似たような傷があるのだな……」
蔵に仕舞われっぱなしだった書籍類の虫干しをしていた榊が、本堂の廊下にいる美也と舞弥を遠目に見ながらつぶやいた。
神格である榊には遠くの声もよく聞こえる。
「……おい壱翁。お前何かないのか? 思うところとか」
黙々と手を動かす壱に目をすがめる榊。
壱は立ち上がって息を吐いた。
「思っている。だが、うわべだけの言葉で舞弥を慰めようとは思わない。舞弥はまだ、俺に家族の話をしない。踏み込むことを許されていないんだ。無理にでも俺から話さなければいけない状況なら別だが、舞弥から話してくれるのを待っているのが今の俺だ」