舞弥自身も夕飯を食べながらだ。壱は遠慮しているらしく、牛乳だけでいいとたぬきの姿のままである。
玉が租借を終えてから説明してくれた。
「俺たちは霊体ではなく実体があるからな。食事も必要だし飲み物も必要だ」
幽霊と妖怪の違いだろうか。
「へー。じゃあトイレも勝手に使っていいからね」
「……お前女子高生だろ? 羞恥心ねーの?」
胡乱な目で言った玉の腕をぽかっと叩く壱。
「玉」
「いやそういうとこぼかさねーのかなって」
「失礼だ。年頃のお嬢さんに向かって。すまない舞弥」
「謝ってばっかだよ、壱。もっと気楽にしていいよ? ご飯も食べようよ」
「いや、こうして上がり込んでいるだけで迷惑をかけてしまっている。これ以上は――」
壱は頑なに拒否するので、舞弥もなんだか意地になってきた。
もっと壱に砕けた態度を取らせたくて悪い顔になる。
「ふーん? じゃあそんな壱と玉にいいこと教えてあげよう」
「おう? なんだ」
「何かあるのか?」
玉と壱が首を傾げる。人間の姿とたぬきの姿と見た目は違うが、その動作がそっくりだった。親子とか兄弟なのだろうか?
「私の亡くなったおばあちゃんがイタコだったんだ。私も少しは霊感があって――だから、壱と玉があやかしなら、祓えちゃったりするんだな」
「「!」」
またもや大きく肩を跳ねさせる壱と玉。
「どうしよっかなー。二人が何か悪さするあやかしだったらこのまま帰せないなー」
笑顔で言う舞弥に、玉は頬を引きつらせた。
「お、お、お前、俺たちをどうする気だ……?」
「舞弥、イタコだったのか……だから俺たちにも動じなかったのか」
壱は納得している風だったが、ちょっと訂正。
「私がイタコなわけじゃないけど、霊感も少しはあるんだよね。ねえ、よかったらここに住まない? たぬきの姿なら置いておけるよ」
舞弥は乗り気で提案した。
玉の変化の姿も、たぬき姿のままでいてくれたらなんら問題はない。
何より、この楽しい空気が舞弥は既に気に入っていた。
「はあ!? なんで俺が人間のとこで暮らさなきゃなんねんだよ!」
吠えた玉の肩を、舞弥がぎゅっと掴む。
「玉、怪我してるでしょ」