「どんな美人にもなびかないとか、告白されても袖にしてばかりだとか」
「………」
舞弥、壱と玉を拾ってからの毎日を思い返してみた。
毛玉になっている壱……三人並んで日向ぼっこをしていてうとうとしている壱(玉はすでに寝ている)……舞弥が薄着をしていると説教してくる壱……。
「なんでだろう、壱がそんな恋愛にうつつを抜かしている若者って気がしない……!」
「榊さんは自称くそじじいだから、おふたりとも若者扱いは見た目だけじゃないかなあ?」
「美也ちゃん達観し過ぎ! え、美也ちゃんの彼氏さん、そんなこと自称してるの?」
「ここのあやかしさんたちも榊さんのことそう思ってるし、自分でもそう言うよ」
強者過ぎる。
壱は若者ぶることもないけど、年老いぶることもないので、正直何千年も生きてるんだっけ、と誰かに言われないと思い出さないレベルになっていた。
「壱がいくつか気にならなくなってきたのはどういう傾向なんだろう……」
ぽつりとつぶやくと、手すりの向こう側に小さな男の子が顔を見せた。
「こんにちは! 壱翁様の彼女様!」
「あ、こ、こんにちは。ええと、朝倉舞弥といいます」
にぱっと可愛らしい笑顔で言われて、舞弥は反射的に名乗った。
するとすぐに美也がやってきた。
「開斗(かいと)くん、おかえりなさい」
「ただいま帰りました! 巫女さま」
「舞弥ちゃん、こちらは開斗くん。榊さんが預かっている龍神さんなの」
「はじめまして。龍神さんなんですね」
「はい! 修行中の身です! 玉くんとお友達になりました!」
「舞弥! 開斗すごいんだぞ! 龍の姿も行ったり来たりだ!」
「う、うん? すごいんだねっ」
玉と開斗のテンションがあがってきゃっきゃしているので、質問をして水を差してもと思い舞弥は訊くのは控えた。
六、七歳くらいの男の姿の開斗と、たぬき姿の玉は、舞弥への挨拶を終えると小さなあやかしたちが集まっている方へ駆けて行った。
「………」
それを見ていた舞弥は、口をつぐんだ。