「目的は別のようです。呪われてから今まで付け狙われ、その度に退けてきました。玉も知らないと思うが、あやかしたぬきの総大将とは別の者だ」
「え……ただでさえ俺が大将に狙われてて面倒かけてたのに、そんな奴とも闘っていたんか……?」
玉は、己の出自であるあやかしたぬきの総大将に狙われている。
舞弥に拾われたときも、壱とふたりでなんとか逃げてきたときだった。
「俺の方は呪う力は強くても、個体としては手間取るほどでもないんだ。ちょっと蹴れば逃げるくらい」
「仕留めなかったのか?」
蹴れば逃げるくらいものに何故今も付け狙われている? と、玉は素直に疑問に思った。
「あー、……俺、何かを殺すことって出来ないんだよ」
「信条とか、そういうことかい?」
大家の問いかけに、壱は軽く首を振った。
「縛り、です。『壱翁は何ものも殺せない』。それが、俺につけられた最初の認識なんです。まあそれで、俺は呪ってきた奴のことを退けるしか出来ないで今まで来たんだ。ここも、今はまだ知られていないけれどそのうち嗅ぎ付けてくるかもしれない。そうなったときの俺に対応を、玉と大家殿には知っておいてほしいのです」
「お、おう……」
「舞弥ちゃんが関わってくるなら、じいさんも他人事ではないね」
「大家殿と舞弥を巻き込んでしまって申し訳なく思っています。もし俺がここにいると知られた場合、俺は――――」