「玉、ちょっと一緒に来い」
休日の昼下がり。
今日は、舞弥はテスト勉強のため友達の家に行っていた。
なんでも友達はアレルギーがあるとかで、念のため壱と玉は来ない方がいいと言うことで留守番をしていた。
玉はバイトのシフトが入っていない日で、壱が神社へ行くときは一緒に行こうと考えていたところだった。
先輩たちとまた遊びたかったので。
「なんだなんだ?」
また先輩たちに会えるぞ、とうきうきの玉。
「たぬきの姿で来てくれ」
「おう?」
詳細を明かさない壱に、玉は少し不思議に思いながらもついていった。
そして。
「大家殿、壱です」
「は?」
壱がノックしたのは、大家の部屋のバルコニーに繋がる窓だった。
「おお。壱さん、いらっしゃい」
大家はたぬきの訪問にも驚いた様子もなく室内から窓を開けて、にこにこしている。
玉は顎が外れそうなくらい驚いていた。
「ちょ、壱!? 大家のじーちゃんじゃねえか!」
思わず玉が吠えると、壱は観念した顔をして玉を見てきた。
「ばれてる。俺たちが舞弥のとこにいること」
「え!?」
大声をあげて玉は固まった。
大家はバルコニーの椅子部分に腰をかけて、おおらかにうなずいた。
「うん、知っとるよ。たぬきさんを二匹、舞弥ちゃんが匿ってるって」
「ええええ!?」
玉は更に驚愕する。まさか大家にばれていたなんて――
「大家殿、俺たちに話とは一体」
壱が、大家に向き直った。玉がガタガタ震え出す。
「お、大家のじーちゃん、俺たちを追い出すとかじゃねえのっ?」
震える玉の頭に、大家が手を載せた。それからなでくりなでくりとされる。
「そんなことはせんよ。舞弥ちゃんにとって大事な家族だからね。玉くん、じいさんとお茶していかないかい」
「え? お茶?」
「俺もこの前そう言われて呼ばれた。俺からも話しておかないといけないことがあるんだ。玉と、大家殿に」