壱と玉が一気に青ざめた。
「い、壱、俺たちはとんでもないところに来てしまったぞ……!」
真っ青な顔で壱を見る玉。壱も若干固まっているようだが、舞弥はけろっと言った。
「怪我で引退したから今はもう猟銃とか持ってないけどね」
「びっくりさすなや!」
「玉。うるさい。すまない舞弥、この牛乳だけいただいたら、俺たちはここから去ることにする」
丁寧に頭を下げる壱だったが、舞弥はなんとなく惜しい気持ちになる。
この部屋がこんなに賑やかなのは初めてだったからだろうか。
「そうなの? じゃあ残りご飯でも食べてく?」
少しでも引き留める方法はないだろうかと、舞弥は提案した。
「いいのか!? 久々の人間の食べ物だー!」
歓喜の声をあげたのは玉である。
壱は、はあ、とため息をついた。
「面倒をかける、舞弥。ところで舞弥は、俺たちに訊きたいことはもうないのか?」
「えーと? 壱と玉はたぬきのあやかしで、人間にもなれるんだよね? あ、じゃあなんであそこに転がってたの?」
「ちょっと覇王を怒らせて逃げてきたところだ。空腹で倒れていた」
ご飯が食べられるとわかった玉は上機嫌で教えてくれた。
「え、玉それ詳しく聞きたいんだけど。こっちおいで、テーブルにあたためたご飯持っていくから」
玉の話に興味を引かれてしまった舞弥は、1dkのリビング部分に壱と玉を呼んだ。
すると壱が渋い顔になる。
「……舞弥、俺たちは性別一応男だから、もっと警戒した方が……」
「なにかあったらすぐにおじーちゃん呼ぶよ?」
「あ、はい」
注意しようとした壱に向かって、いい笑顔を見せる舞弥。壱は大人しくうなずいた。玉はなんの疑問もなくローテーブルについている。
「壱、お前も早く変化(へんげ)したら?」
「いや、なんかそういう雰囲気じゃないだろう……」
舞弥が残りご飯を電子レンジであたためていると、壱と玉がこそこそ話していた。
冷凍ご飯を三人分と、残りもののおかずをあたためて部屋に持って行きテーブルに並べる。
「人間の……ご飯……!」
玉が泣きながら食べているのを見て、舞弥は平坦な目になった。
「今更なんだけどさ、あやかしって妖怪とかでしょ? なんで人間のご飯食べれるの?」