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ずーんと、一晩眠れなかった舞弥は今にも人を呪いそうな顔で歩いていた。
「舞弥、調子が悪かったら日を改めるが……」
「……」
隣を歩く壱の心配にも、無言を通す舞弥。
神格とやらに直接会うことに不安がある玉は毛玉のマスコットになって舞弥のバッグについている。
腹の中がぐるぐるしている舞弥だが、壱の人の姿は舞弥のどタイプだった。
「巫女殿、舞弥に会えるのを楽しみにしていたぞ?」
「………」
知らない。壱のいるところの巫女になれるような人、舞弥は知りたくもない。
だが、どんな人か――どんな女か見てみたくて、重たい足取りながら来てしまった。……のだが。
「この階段の上だ。……こう見ると階段ももう少しゆるやかでもいいな……」
壱の発言は既に経営者のそれだった。舞弥をいらつかせる。
「やっぱり帰る」
言って、舞弥は踵(きびす)を返した。
壱が驚いた顔をしたのが視界の端に映る。
「え? やはり体調が悪かったか?」
「……会いたくない」
「だが――」
「壱の傍にいるような女の人と、会いたくない!」
「舞弥ちゃん!」
大きな声で名前を呼んだのは、舞弥の大事な友達の声――
「美也ちゃん!?」
なぜか、清水美也が階段を駆け足で降りてくるところだった。
「本当に舞弥ちゃんだ! 壱翁様が名前伏せるから気になってたんだ! 壱翁様と暮らしてるんだって?」
舞弥の目の前に来て最後はこそっと訊いてきた美也は、いわゆる巫女装束だった。
「え? 美也ちゃん、なんでそんなカッコしてるの?」
理解の追い付かない舞弥は、何度も瞬きながら聞いた。
こんな場面で逢ってしまったが、美也は可愛かった。
「あれ? 壱翁様から聞いてない? ここ、私の彼氏――あ、とある龍神様のいる神社で、私が龍神様の巫女で、壱翁様が神主をやるって話になってるんだけど」
「え……」