「? どうした?」
「ええと……せ、せっかくだったら玉が帰ってくるまではその姿でいてもいいかも……? なんて」
「ああ、そうだな。玉にも見せておかないといけないな」
舞弥が若干挙動不審に見えるが、言っていることはその通りなのでうなずいた。
「舞弥、昼餉(ひるげ)を食べたらもう少し横になっていろ。夕飯の分は俺が用意しておくから」
「あ……うん……」
「ほかのことも心配しなくていい。軽く掃除もしておくから」
「壱……なんだか神々しいのにすごい所帯じみてるね……」
舞弥は、壱がまぶしいのか近しいのかよくわからない心地だった。
「神々しいのは榊に任せてある。俺は舞弥のもとにいると決めたから」
壱がそっと伸ばした手に頭を撫でられて、舞弥の心臓は高鳴った。
「う、うん……」
壱の甘いセリフと笑顔に、うまく声が出ない。
ここまで誰かのことを見入ってしまったのは初めてだ。
(壱ってもちろんカッコいいし綺麗なんだけど、ここまでタイプって思える見た目の人、初めてすぎる……でも壱は自分の見た目好きじゃないみたいだから、軽々しく言っちゃダメだな……)
それから壱に言われた通り、お昼ご飯におかゆを少し食べて、薬を飲んでまた横になった。
ただ、さっきまでと違って壱が人間の姿でいるので、しかも舞弥を見てくるので、始終落ち着かない心地である。
その緊張が解かれたのは、バイトを終えた玉が帰って来てからだった。
いつも通りたぬき姿で窓から帰宅した玉は、室内に見知らぬ男がいると見て叫んだ。
「うわ―――! 誰だてめえ不審者! 舞弥から離れろー!」
言うなり、たぬき姿の玉が壱の頬に飛び蹴りを喰らわせた。
「痛っ、何するんだ、玉」
突然の襲撃に驚いた壱が言うと、舞弥の前に立ちはだかった玉は牙をむく。
「ふしゃー! こいつはご飯をくれた恩人じゃあ! 壱のためにも護る!」
言っていることは格好いいし、足も震えてなんかはいない。
だが、叫んでいる相手は壱だった。