「お……恐らく、な。白いたぬきが俺の望んだ姿というわけではないが」
「そうなんだ……あの、壱……呪いが解けて、そんなに嬉しくない?」
「なぜだ? 嬉しいに決まっている」
そう答えると、舞弥は少し困ったような顔になった。
「なんか顔は浮かなそうだから……」
「ああ……まあ、ちょっとこの見た目には思うところがあってな」
「そうなの? でも中身は優しい壱のまんまなんだから、別に見た目変わったからって気にすることなくない?」
その言葉は、壱にはただ衝撃だった。壱を呪ったものは、壱の外見にしか興味がなかったから。
「……俺が、……」
この見た目でなくても、舞弥は傍にいたいと言ってくれるか? と言おうとして、壱は口をつぐんだ。
そんなこと、聞いてどうする。
壱の心の中の悩みに気づかない舞弥は、あっ、と声をあげた。
「ねえ、たぬきの姿にはもうなれないの?」
「いや? 俺は変化(へんげ)の妖異だから、なれるよ?」
何か心配ごとでもあるのだろうか、と壱は返事をする。
「そっか。いや、急に男の人と住みだしたらおじーちゃんに心配かけちゃうなって思って」
舞弥に慌てたようにそう言われて、確かに、と思った。
「そうだな。出来るだけたぬきの姿でいよう」
好んでなった姿ではないが、だいぶ板についてきているのは自覚していた。
「ちなみにその人間と同じ姿って、玉は知ってるの?」
「知らない……な。呪いの制約で、いつものたぬきの姿よりは大きくなれなかったんだ」
「玉から……訊かれたこともない?」
「誤魔化してきた」
「力技だね……。壱、出来たら部屋の中ではたぬき姿でいてもらっていい?」
その要望を言う舞弥は、なぜだか恥ずかしがっている様子。
「ん? ああ……大家殿以外にも不都合があったか?」
「その、なんていうか……照れる」
「え? ……ああ、うん、そうか……?」
よくわからない説明だったが、あまり問い詰めるのも失礼かと思い、退くことにした。
「あっ、ちょっと待ってやっぱ」