「舞弥、なんでも言ってみろ。お前の望むことを、俺が叶えたい」

壱の口からするりと出てきた言葉。壱は誰彼優しくする性格ではない。

自分の心の中に場所を与えた者にしかそれは見せない。

舞弥は一度口を開きかけ――閉じた。

「………だめだ。言っちゃいけないこと言っちゃいそう」

自戒のように、舞弥は唇の端に笑みを乗せる。

「なんでも言っていい。今なら、熱で口にしたことだととらえておくから」

「……叶えようと、しないでね?」

「それは内容いかんによる」

壱が穏やかな声で言うと、舞弥は両ひざに顔をうずめた。

「……ここにいてほしい……」

小さな小さな声。小さくて欲張りな、舞弥の願い。

「? ここに?」

問われて、舞弥は一層膝に顔をうずめる。

「……壱と玉に、出て行かないでほしい……」

「―――」

……舞弥の願いと壱の希望は、重なっていた。

舞弥は壱と玉と暮らしていきたいし、壱は舞弥と玉の傍にいたい。

だがお互い、最初の言葉が枷となって本音を口に出来ないでいた。

怪我が治ったら出て行くという、たった一度、なんのけなしに口にしたことであっても。

「……舞弥」

壱に名前を呼ばれて、舞弥は顔をあげて慌てて手を振った。

「ほ、ほんと気にしないでっ。熱で頭おかしくなってるだけだから――」

「俺も、舞弥と一緒にいたいと思っている」

「……え?」

壱は少し恥ずかしそうに、照れたように――けれどまっすぐに言葉する。

「自分から出て行くと言っておいてあれだが、……舞弥といると玉が元気だししっかりしようと頑張っているし――何より俺が、舞弥とずっと一緒にいたいと考えるようになっていた。だが、俺たちはしょせんあやかしだ。人間ではないし、人間にもなれない。それでも――舞弥と一緒にいていいだろうか? ……いや、舞弥、俺と一緒にいてほしい。俺と、玉と」

あやかしと人間、その垣根はついて回る。

一緒にいることが難しいときがやってくるかもしれない。

それでも一緒にいたいと願う。……それは罪だろうか。

「……壱ってかっこいいね」

自分の頬に添えられている壱の手を取って、舞弥は唇を寄せた。

「ありがとう……嬉しい」