「気にしないで。じゃあ、町内会に行く前に簡単なご飯は届けるよ。薬はあるかい?」

「うん、風邪薬はあったよ」

「寝てるとこを邪魔しちゃいけないね。ドアノブにかけておくから、起きたら食べて」

「ありがとう」

舞弥は笑顔で答えて、電話を借りてから自分の部屋に戻った。







「……俺、バイト行って来るわ。わかってると思うけど、帰りは遅くなる」

「ああ」

玉は壱に向けて申し訳なさそうに言って、窓から滑り出た。

「………」

たぬき姿の壱の前には、敷かれた布団に横になった舞弥がいる。

部屋を辞してからすぐに大家が届けてくれたおかゆを食べて薬を飲んだら眠気がきたようで、今はぐっすり眠っている。

壱に背を向けた格好で寝ているが、熱が高いためか寝苦しそうだ。

「舞弥……」

壱は腕を伸ばして、舞弥の額に手をやる。

すごく熱くて、舞弥がどれだけ苦しいのか伝わってきた。

確かこういうとき、人間は水で濡らした手ぬぐいを額に乗せたりするのだ。

タオルが仕舞ってある場所はわかるので、薄手のものを一枚取り出して、キッチンの流し台にぴょいと飛び乗り水で濡らしてしぼった。

それを手にして再び床へ飛び降り舞弥の許へ駆け寄る。

よく冷えたタオルを額に乗せると、舞弥の辛そうな顔が少しゆるんだように見えた。

無力なものだ。あやかし七翁のひとつと恐れられていたが、人間の子供の風邪ひとつどうにもできないとは。

「舞弥……苦しいよな、辛いよな……傍にいるから、どうか元気になってくれ……」

独りのとき、病にかかったことは壱もある。

たぬきの姿だったので、樹の穴を見つけて縮こまっている以外出来ることがなくて、辛くて苦しくて――ただただ、淋しかった。

「壱……」

舞弥にかすれた声で呼ばれて、壱は顔を覗き込んだ。

目を閉じていて、起きた様子はない。寝言のようだ。

「舞弥、ここにいるぞ。玉は舞弥の分もシフトを入ってくると言っていたから、今はいないが心配しなくていい」

舞弥の頭を撫でると、舞弥はう~んとうなって――壱の腕を掴んで引っ張った。