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朝起きたときから、舞弥は様子がおかしかった。
顔が赤くて、鼻がずるずるしている。
たぬき姿の、起きたばかりの壱がぎょっとして駆け寄ると、舞弥はかすれた声で喋った。
「ちょっとおじーちゃんのとこ行って来る……」
「大家殿のとこに? 待て! そんな状態で――」
「これ完全に風邪だわ……。私スマホ持ってないから、おじーちゃんちの電話貸してもらって学校に休む電話しなきゃ……」
ふらふらしながら、パジャマに上着をひっかけた格好の舞弥が出ていこうとするので、壱は咄嗟に小さな毛玉に変化して舞弥の上着のポケットにすべりこんだ。
一人暮らしの舞弥の学校への電話を壱が代わるわけにはいかないし、舞弥の部屋には連絡する機械がないから、一度は大家のところへ頼らないといけないのは確かだ。
一階の角部屋のチャイムを鳴らして、「舞弥です~」と言うと、すぐにドアが開いた。
「おじーちゃーん、朝早くにごめんなさい~」
「舞弥ちゃん、おはよう、って、どうしたっ?」
マスクをして顔が真っ赤な舞弥を見て、大家は泡食った。
「風邪ひいちゃって……学校に連絡したいから、電話借りてもいい? おじーちゃんにうつすといけないから、電話したらすぐ帰るから」
「そのくらいいくらでも貸すよ。いや、ここで横になっていきなさい。今おかゆ作るから――」
大家が慌てて言うと、舞弥はそれを押しとどめた。
「だめだよおじーちゃん、今日町内会がある日でしょ? 会長が欠席なんてだめだよ」
笑顔を作って言う舞弥を見て、大家は渋い顔をする。
「そんなことより舞弥ちゃんの方が大事だよ。私の代わりはいるけど、舞弥ちゃんの代わりはいないんだから」
大家にそう言われて、舞弥はにへらっと笑った。顔の筋肉がゆるむ。
「ありがとうおじーちゃん。今の言葉で元気出たから、あとは今日一日寝てたら治る気がしてきた」
「でも――」
「私も一人に慣れたから、一人で寝てる方がラクだと思うんだ。ワガママと面倒ばかりごめんね」