そのときが来たら、きっとたくさん泣いてしまうと思う。でも、笑顔で送り出したいとも思う。壱と玉がくれた楽しい時間の最後を飾るのが涙では、なんとなくいやだ。

壱と玉にも、笑顔の自分を憶えていてほしい。

願いごとがたくさんありすぎる。少し傲慢かな、と思うくらいに。

「壱、玉、今日はバイトないから二人の食べたいもの作るよ」

そう舞弥が小さく言うと、少しだけ白いマスコットが揺れて、なにも当たっていないはずの舞弥の右足を何かが叩いた感触がした。

舞弥の口元はにやけてしまう。

きっと、食い意地の張っている玉が「ぃやったぜー!」と喜び勇んで足を叩いてきたのだろう。

姿が見えなくても、簡単に想像がついた。



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「作戦会議だ、壱」

「お前……」

「こ、これは舞弥が味見してくれって渡してきたんだっ。正当なる味見だっ」

たぬき姿の壱と玉は、部屋の隅っこにいた。

舞弥が、料理をしているときは毛が入ったら嫌だから近づかないで、と言っているのでその通りにしているのだ。

玉にいたっては、味見と称したお茶碗いっぱいの豚汁を手にしていた。お箸も器用に使っている。

「で? 何かいたか」

気を取り直した壱が小声で問いかける。

「いや、怪しいものはいなかった。俺はどういう人間があやしいのかわからないから、対象をあやかしでしかわからないが……」

「そうか……。舞弥に心配なことが起きなければいいが……」

「そこは壱が護ればいいんじゃないか?」

べたーっと足を広げて座って、まぐまぐと食べながら玉が言った。

「俺?」

「先に舞弥の護衛をすると言ったのは壱だ。俺も放棄するつもりはないが、言い出しっぺの責任はあると思うぞ」

玉はなんでもない風に言い切って次々食べているが、壱は大きく瞬いた。

ただ単に、その発想がなかったのだ。

(責任……そうか、責任か……)

確かに、舞弥の部屋に世話になっているから礼代わりのひとつとして護衛をしたい、と言い出したのは自分だ。

言葉には責任がついてまわる。

人間あやかし、関係なく。