「うん?」
「どうした、舞弥」
下校中、いきなり振り返った舞弥を不思議に思った、マスコットに変化している壱が小さく呼びかけた。
「いや……なんか今見られてる気がして……。」
「ふむ? ……近くに危険なあやかしはいないようだが……」
壱の返事に、舞弥は首を傾げた。
「うーん? 知り合いでもいたのかな?」
「心配なら俺が辺りを見てこよう。こういうときのために護衛だからな」
玉の変化である黒いマスコットが、胸を張ったのかちょっと膨らんだ。
マスコットの姿とはいえあやかしなので、この姿でも喋れるどころか動くことも出来る。
「壱は舞弥のとこにいてくれ。隠形していくから、アパートで合流しよう」
ぽんっと、黒いマスコットが消えた。
そして玉の宣言通り、舞弥には玉がどこにいるか全然わからなかった。
「壱……玉、近くにいるの?」
小声で問えば、「ああ」と返事があった。それ以上は何も言わない。人通りがある道に出てきたので気を遣ってくれたのかもしれない。
「………」
なんだか、ちょっと淋しい。
遠縁の親戚のアパートに世話になっているとはいえ一人暮らしには変わりない日常だった。
それが壱と玉が来てから、部屋の中ではたぬきの姿だがご飯はいつも三人で食べて、寝る時も近くで寝て、舞弥のお風呂あがりには壱が絶対目を合わせてくれなくて不思議がる玉にツッコまれたりして……
「楽しいんだよな……」
ぽつ、と口からもれたのは舞弥の心だった。
そして続いて心に浮かんだのは、「ずっとこうだったらいいのに」という言葉だった。
ふるり、と首を横に振る。それは考えてはいけないやつだ。
今、舞弥は壱と玉を保護している状態だ。怪我を負ったから、一時的に人間があやかしを保護している。
それに過ぎないのだから、傷が治ったら壱も玉も出て行ってしまうのだろう。
壱にも玉にも今まで生きてきた世界があって、恐らくそっちにいる方が自然で当たり前なのだ。
舞弥が人間の世界で生きてきて、これからも人間として生きていくように。
いつか別れはくる。そう遠くはないいつかだろう。