「……うん」

マスコットが小さく震えだしたのが、舞弥の目にもわかった。

……触れられたくない話題、なのだろうか。舞弥は慌てて手を振った。

「あ、気にしないで。不審者じゃないんならいいんだ。さすがに自分が住んでるアパートの屋根に危ない人がいたら怖いってだけだから」

「不審者ではない……はずだ……」

「なぜ言い切らない。あ、そろそろ戻らないと。じゃあ閉店まで待っててね」

「わかった」

白い毛玉のマスコットがふよふよと浮いて返事をする。

カバンをロッカーにしまって仕事に戻った。

「おう、舞弥」

「玉」

休憩室から出たところで、玉と行き会った。

「てんちょうから舞弥に連絡だ。もうだいぶ客も少なくなっているから、休憩からあがったら清掃作業に入っていいそうだ」

「了解~。ってか玉、仕事どんどん覚えるね」

「このくらいはな。壱の教育は厳しかったから」

「壱に教育された立場なの? やっぱ後方保護者面で合ってる気しかしない」

「こうほう……? 前方後円墳の仲間か?」

時代遅れのあやかしになりたくないと言っても、現代のすべてを知っているわけではないようだ。古墳の仲間ではない。

「気にしなくていいよ。じゃあもうちょい頑張ろう」

「おう」

てきぱきと仕事をする舞弥と玉を見た店長に、永利が話しかけた。

「二人ともよく働きますねー。玉くんも仕事覚えるの早いし、何よりイケメンだから目当てで来てるお客様、いますよね」

「まあ……ね。舞弥ちゃんも玉くんも働き者だけど、そこはちょっと心配……」

店長の言葉を聞いた永利は声をひそめた。

「……ストーカーとかの心配ですか?」

「そんな感じ……。永利ちゃん、もし二人から何か相談されたら躊躇わずにあたしに言ってほしいんだ」

「わかりました。そういう話って早めに対応しないとやばいですもんね」

永利も真剣な顔で答える。

――このとき、既に玉の帰りを狙う存在がいたことは、誰も気づいていなかった。