「まったくこの古だぬきは。ほら、とっとと寝るぞ。俺は明日バイトの面接があるんだ。寝不足顔じゃいけん」
「なにげに意識高い」
「当たりまえだ。俺は時代遅れのあやかしになる気はないからな」
「玉ってスパッとしてるよね。切れ味のいい包丁みたい」
やんややんやと、舞弥と玉は仲良さげに話しながら寝る準備に入っている。
「壱、さっさと寝るぞ」
舞弥がバスタオルで作ってくれた寝床に横になりながら、玉はジト目で壱を見た。
「あ、ああ……」
昼間震えあがっていた榊のことはもういいのだろうか。
舞弥はもう布団にもぐっていて、部屋の電気も消されて壱もただ寝るしかなさそうだ。
壱はバスタオル寝床に腰をおろした。
壱と玉の方を向いて横になった舞弥から、心細そうな声が聞えてきた。
「壱、なにも言わないで出ていくのはやめてね。……淋しいから」
「ふん。その時は俺が見つけて連れ戻してやる。一宿一飯の恩は重いんだ。人間に礼を返すまでは勝手にいなくなったらゆるさないからな」
ふたりに言われて、壱の顔はゆるんだ。
玉はたまたま見つけた縁で一緒に行動しているが、なんだかんだそう言ってくれる存在として見られているのか。
舞弥も、たまたま助けてくれた子だけれど、すぐに出ていけなんて思われていないどころか、いなくなることを淋しいと思ってくれているのか。
「……おやすみ」
ありがとう、の代わりに壱が小さく言った。
舞弥から同じ言葉がかえってきて、玉はふんと鼻をならした。