「強情だぬきめ」

「なんとでも言え。気にするほど繊細じゃない」

ぷいっとそっぽを向く壱。

昔馴染みだから壱にあったことを知っているが、榊ではどうともしてやれない。

……今、朝倉舞弥がそれに一番近い存在なのだろうか――。







「実はな俺も――――――なんだ」

「へえ? 何かわけでもあるのかな? ……あ、壱、お帰りー」

壱が窓から舞弥の部屋に戻ると、敷いてある布団の上に座った舞弥と、たぬき姿で布団の横にいる玉が何やら話していた。

枕元のスタンドライトが作った陰影を背負った玉が壱に吠える。

「コラアア壱! お前勝手にひとりで出ていくなよ!」

「え? なんで起きてるんだ?」

「起きるわ! あんなバカでかい神気がそばにいたら嫌でも!」

「え――」

榊と会っていたことを玉と舞弥に知られてしまった? でなければ神気などとは言わないだろう。

榊も気を遣っていたようで神気を抑えているのはわかったが、赤ちゃんな玉は敏感に察知してしまったようだ。

「出て行ったのって、知り合いと会うためだよね? ひとりでここを出ていくとかそんなんじゃないよね?」

なぜか切羽詰まった様子の舞弥に言われて、返事も出来ずに壱の心臓はドキドキしていた。

まさか、榊からの呼び名だけでも知られたくないのに――。

「お前がどこぞのどなた様と仲良くてもいいけど、一人でいなくなるなよな!」

びしっと玉に指をさされて、壱は大きく瞬いた。

「え……怒ってるの、そこ?」

「ほかにどこを怒れっちゅーんじゃい! このすかぽんたん!」

「すか……?」

それは罵倒の言葉なのだろうか。壱にはよくわからなかったが、玉が全身の毛を逆立てて怒っているのは榊と会っていたことではないようだ。

シャーッ、というよりは、ぷんぷんした怒り方だが。