玄関ドアを閉めて安堵の一息をつくと、廊下にあるキッチンの隣に設置している冷蔵庫をのぞいた。

「えーと、動物が食べても大丈夫なもの……牛乳?」

「和食も好きだぞ」

「へー、………え」

「洋食も好きだ」

「え………」

今度もはっきり聞こえた。

舞弥は恐る恐る振り返る――その目に映ったのは、腰らしき場所に手を当てて仁王立ちしている黒茶のたぬきと、舞弥をじーっとつぶらな瞳で見てくるもう一匹の白いたぬき。

白いたぬきがいるのかはわからなかったが、色をのぞけば特徴はたぬきだ。

「………」

少し考えたあと舞弥は、小皿を二枚取り出し、牛乳を注いでそれぞれのたぬきの前に置いた。

「おお、かたじけない」

「すまない、いただく」

ぺろぺろ、と牛乳を舐めだした二匹(匹?)。

「って、ちっがーう! 和食とか洋食とかあるだろう! 人間の食べ物!」

先ほどから偉そうに色々言ってくる黒茶の方が、憤慨だとばかりに吠えた。

「ごめん、冷蔵庫にあるの中華なんだ。昨日の残り」

「中華も食べるわ! 基本好き嫌いねーし!」

もう疑う余地もないくらいカンペキに、喋っているのはたぬきだった。

舞弥はため息をつく。

「ってかさあ、正体明かしてくんない? 君ら、たぬきなの? 警察が逮捕してくれる存在? それともお祓いに行ったほうがいいいやつ?」

「む? そういや娘、俺たちに動じないな」

「割と動じる経験積んで来ちゃったからね」

「そうかそうか。ふふふ、ならばこれなら驚くだろう!」

べらべら喋っていた黒茶のたぬきが胸を張ると、牛乳を飲んでいたもう一匹が「もう?」と言いながら顔をあげた。

「ふふふ、我ら狐狸妖怪(こりようかい)。変化(へんげ)が得意だ!」

「えーと、人間。俺たちはたぬきのあやかしだ。こいつみたいに人間にもなれる」

「お前も変化しろよ!」

「まだ牛乳飲んでる」

よく喋る黒茶たぬきが、それこそドロン! といった効果音がつきそうな様相で前転すると、姿がたぬきから――イケメンの部類に入るだろう人間の姿になった。