「だから! 俺と舞弥はまだそういう関係では――」

「まだ? ということは関係を発展させたいのか。大いに協力するぞ」

榊は心底楽しそうににやにやしている。

「榊! 勝手に一人で話を進めるな! そもそも、こんな呪いを負った妖異が人の子を娶(めと)るなどありえない」

そう言い返すと、榊はふんと腕を組んだ。

「俺は美也を巫女として迎えるしその準備も佳境だ」

「榊は龍神、俺はモブ妖異」

「あやかし七翁の間違いだろうが。お前たちがひとつとして欠けていたら、今この国の妖異はこのような形になっていない」

「む、むぅぅ」

やはりこの話になると負けがちな壱だ。

「壱翁、誤魔化すのはもうやめろ。お前は呪いを解けるし、幸せになっていい」

「……男に言われると気持ち悪いセリフだな」

壱はもう体裁を繕う気はなかった。

「お前たぬきのくせに猫かぶりしてるのか」

「じゃないとやってられんわ、こんな体」

壱が毛繕いをする様は、動物のそれである。

「まあ、お前の呪いが解けると言っても、俺が解いてやることは出来ないしな……」

「お前に解かれたら憤死してる」

「言うな、この古だぬき」

「初恋こじらせた龍神様に言われたくね」

つーん、とそっぽを向く壱。それから、ちらと視線だけ榊はやった。

「あの少女――何があった?」

「美也か?」

「お前が人の子を恋人にするなんて、天変地異の前触れかと思ったわ」

「美也とは色々あったが……お前に話すと尊さが減るから話さん」

榊の言いぐさに、壱は呆れた声が出た。

「尊さって……お前は面倒くさい人間のオタクか」

「美也オタクなら名乗るのも異論はない」

「龍神の威厳のかけらもない」

「美也といるためならば、神格を捨てることも厭わないからな」

その発言には、さすがに壱も驚いた。