「……そんなもの、生きてる間にどっかにお供えしてきました」

「供えられた方迷惑だから回収してこい。誰もお前の代わりなど出来ないのだから」

榊に平坦な目で言われて、壱は返事に窮した。

壱は欠けることがゆるされない。そういう存在だ。

「月光か。……お前らしい」

皮肉交じりの榊に、壱はちっと舌打ちをしながら答えた。

「月の光を浴びねば消えてしまうので」

「そういう呪い、か……」

てしてし、と顔を掻いた壱を見た榊は平坦な目になった。

「お前、その姿が板についてきたな……」

「もうどのくらいたぬきかわかりませんので。ところで、今まで妻を持たなかった榊殿が人間の子を恋人というのは、理由を知りたいところです」

「……言わん」

「ありゃ、フラれてしまいました。まあ、榊殿が惚れた方ならば、良い方であることは明白です。舞弥の友人でもあるようですし。いつか俺も会ってみたいです」

若干嫌味返しな感じで言うと、榊は驚いた顔になった。

「お前……」

「なんです?」

「あの子どもに惚れたのか」

「……はっ?」

子ども? 惚れた?

「人間嫌いのお前がどうして人の子の傍にいるのか不思議だった。お前の連れのためというわけではないようだし……好いたか」

「えっ、はっ、あっ?」

壱が榊の解釈に面食らっていると、榊は得意げな顔になる。

「ほう、そこまで取り乱すお前は初めて見た。どうだ、お互い人の子に惚れた者同士だ。話せることもあるだろう」

「なっ、なっ、なにをっ、榊殿っ」

「お前がそこまで取り乱すとは……朝倉舞弥という人の子はすごいな。また美也と逢うこともあるだろうから、次は色々聞かせてもらおう」

「榊!」

――つい、過去に接していたように名前を呼んでしまった。

幼い玉の手前、神格に対しては従順な態度を貫いてきたが、壱の化けの皮がはがれてしまった。