「あれは付き合いと言うか……」
舞弥の護衛としてついていくことは自分から言い出したことだが、あのような恰好でついていくことになったのは玉の提案である。
壱としては姿が見えないように隠形(おんぎょう)してついていくつもりだった。
「あの小さいたぬきか。……もしかしてあれはお前のことを知らないんじゃないか?」
榊が壱の隣に腰をおろしたので、その顔が近くになった。
さすが神格といった、忘れようもない美貌を惜しげもなくさらす相手が自分なのはどうかと思う。
壱は榊の顔なんか見飽きていた。
「まあ……知らないでしょう。玉は俺が拾いましたから」
「お前が養父ということか?」
そう問われて、壱はうなった。
「そこまででは……」
ないと思うのだが。
ただ、迫害されていた玉を拾って今まで一緒にいただけだ。おかげで、壱のことを知らない者たちから壱も迫害を受けたが、今まで生きてきた道を考えれば特段厳しかったということもない。
榊が少し前かがみになって壱の顔を覗き込むようなことをした。
「……呪いを解く気にはなったか?」
「………」
壱が無言を返すと、榊はひらりと手を舞わせた。
壱の前に宙に浮いた水鏡(みかがみ)が現れる。
そこに映ったのはたぬきではなく、白髪(はくはつ)の若い青年の姿だった。
白い髪は清潔感のある長さで、穏やかな瞳は黒く、全体的に甘やかな顔つきをしている。
それを見た壱は不機嫌になった。
榊はため息をつく。
「これでも、昔馴染みを心配しているんだが?」
「榊殿に心配をかけるのは心苦しいが……まあ、なるようになります」
「なるようになってたらお前今もその姿じゃないだろう」
壱が何を言っても榊は譲る気はないようだ。
榊は昔から世話焼きで、怪我をした小さなあやかしたちをほいほい拾ってきては自分のもとに置いていた。それを自分に発揮しないでほしい。話題を変えよう。
「そういえば榊殿、ともにおられた恋人殿とはどういった馴れ初めで?」
「誤魔化すな。妖異の翁(おう)」
「む」
壱はうなった。その名を出されると、弱い。
「開闢のときより存在するあやかしの七翁(ななおう)のひとつという認識は、己にあるのか?」
榊の追求に、すい~、と視線を逸らす壱。