「でもそんな神様を彼氏にしちゃう美也ちゃんって……」
「ああ……」
神妙な声で玉がうなずく。
「美也ちゃんすごいってことでしかないね!」
「ちげーよ! あの娘、龍神様の巫女じゃねーの!?」
「だから美也ちゃんのこと娘って呼ぶなたぬき! 清水美也ちゃんって可愛い名前があるんだから!」
「なにをう!?」
「玉、娘ではなく美也嬢と呼ぼう。俺は名前も容姿も舞弥の方が好きだがな」
「ええ~、人間の娘に嬢をつけるなんて……あ、はい美也嬢と呼びます」
威勢の良かった玉が急に聞き分けがよくなった。
何があった、と舞弥がカバンを見ると、黒い毛玉の上に白い毛玉がいた。
……壱が玉の頭を押さえているイメージで合っているだろうか?
友達の彼氏が龍神というのは驚きだが、美也の彼氏が龍神ということへの驚きはあまりなかった。
それからバイトに行った舞弥は店長に、知り合いが面接を受けたいと言っている、と伝えた。
翌日、玉のバイト面接が行われることになった。
+++
寝入った舞弥と玉を部屋に置いて、壱はアパートの屋根に上っていた。
四月の夜はまだうすら寒いが、自前の毛皮があるのでどうということはない。
雲がなく、月の明るい夜だ。
壱は長く息をつく。
舞弥の部屋に世話になってしまっているが、壱と玉が負った傷はそう簡単に癒えるものではなかった。
だからといって、いつまでも舞弥のもとにいるわけにもいかない。
そのとき、ふと月の光が陰った。
空を仰いだ壱は、和服姿の見知った顔が隣に立っているのを見て眉間にしわを寄せた。
影は壱を見て、にっと笑う。
「久しいな、壱翁(いちおう)」
「榊殿……」
榊――昼間出逢った舞弥の友人、清水美也が彼氏と紹介した者だ。
地上の龍神の最高神でもある。
「お前まだ毛玉やってるのか?」
「毛玉やってるわけではありません。たぬきです」
「ならなんで人間のカバンにくっついていた」
壱はうっと言葉に詰まった。ばれていた。