「ああ、美也ちゃん? 清水美也ちゃん、中学の同級生だよ。可愛いでしょ? 人気すごかったんだよー。お互いスマホ持ってないからそう頻繁に連絡取れるわけじゃないんだけど……そろそろスマホ買おうかなー」
舞弥がのんびり説明すると、黒い毛玉が吠えた。
「そっちじゃねーわ! なんであのようなお方を彼氏って言ってんだあの娘は!」
ぴく、と舞弥の耳が動いた。そのまま黒い毛玉をにらみつける。
「あ? 誰の事娘扱いしてんだ玉。ご飯抜きにするぞ?」
「ひっ!」
まだ一晩しか一緒に過ごしていないが、玉が人間のご飯が大好きなことはよくわかったので試しに言ってみたら結構効いたようだ。
玉、黙った。
「舞弥、玉、落ち着け。舞弥、あのだな……さきほど彼氏と紹介された方は人間ではないのだ。気にならなかったか?」
壱に言われて、舞弥は美也の隣を思い出す。
とんでもイケメンだとは思ったけど……
「そうなの? 美也ちゃんに彼氏できたのが嬉しくて舞い上がってたかも……」
舞弥が素直に言うと、玉が食い気味に吠えた。
「あのお方は! 地上の龍神の最高神であるお方だ!」
大声を出したせいなのか、ストラップについた格好ながら黒い毛玉はふよふよと宙に浮いている。
「龍神? 神様なの?」
さすがにそれには舞弥も驚いた。
「そうだ! 我ら下っ端モブごときでは御名前を呼ぶことすらはばかられるような存在! 開闢(かいびゃく)のときより存在され、今までその神格を揺らがせたことのない御方! その一方で傷ついたあやかしにはお優しく、御許(おんもと)で庇護されるという慈愛のお方でもあるのだ!」
情報が多い。
舞弥は脳内で順番に処理しようとしたが、昨日壱と玉というあやかしの次に今度は神様が出てきて、処理が追い付かなかった。
「……怖い人なの? 優しい人なの? あとなんで玉はそんなにびびってるの?」
舞弥にとっては、神様であることより友達の美也の彼氏であることの方がおおごとだ。
中学時代の美也は、愛らしい見た目から男子から人気があったが、美也は男子の友達はおらず、いつも女子としか一緒にいなかった。
告白されることもあったけど、全部断っていた。
「慈愛の御方なのだが、あふれ出る神気にびびってしまう。決して怖い方ではない……はずだ……」
玉の言葉はもう消え入りそうだった。
とりあえず、怖い存在ではないらしい。そのことに舞弥は安心した。