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「舞弥ちゃん!」

学校を終えてバイトに行くための道を歩いていると、名前を呼ばれた。

振り返った舞弥はぱあっと顔を輝かせる。そこにいたのは、中学で仲良くしていたクラスメイト。

「美也(みや)ちゃん! 元気? 卒業ぶり~!」

「元気だよー。舞弥ちゃんも元気そうでよかった」

中学のとき、二、三年で同じクラスだった清水美也だ。

美也と舞弥で、名前が似ているね、と仲良くなったのだ。

ただ、お互いスマートフォンを持っていなかったし高校も別になっていたので、ちょくちょく会う、というわけではなかった。

「元気元気! ん? 美也ちゃん、その人は?」

美也の隣に立つ青年を見て、舞弥は尋ねた。

スラっと背の高い男の人だった。

顔つきは精悍で、特段着飾ってもいないよく見るような服装なのに、なんだか神々しく見える。

美也は恥ずかしそうに紹介した。

「榊(さかき)さん。私の……その、彼氏……」

「ええー! 美也ちゃんさすが! 彼氏さんめちゃイケメン! あ、私美也ちゃんのクラスメイトだった朝倉舞弥っていいます。はじめまして」

「榊だ。美也が世話になっている。……美也と仲良くしてくれて、ありがとう」

舞弥が頭を下げると、榊という青年は優しい顔でそう言った。

美也を大事に思っているのがよく伝わってくる表情だった。

「いえ! こちらこそいつも美也ちゃんにはお世話になっています。美也ちゃん、おめでとう。幸せにね」

舞弥からの笑顔を受けて、美也は恥ずかしそうに笑みをこぼした。

「いや~、さすが美也ちゃん。すっごいイケメン彼氏じゃ~ん!」

美也とその彼氏と別れて、舞弥は再びバイトへ向かいながら一人上機嫌だった。

るんるんとスキップする勢いでいたら、ふとカバンについている黒い毛玉が白い毛玉にくっついていることに気づいた。

舞弥は平坦な目になる。

「何やってんの? 私BL興味ないんだけど」

「ばっ、おっ、あっ」

「は?」

ふるふるとふるえながらくっついている黒い毛玉。

玉は何か言いたいらしいが、何を言いたいのかわからなかった。

代わりに壱が口を開く。

「ま、舞弥、さきほどの方は……」