「え……なんか想像以上に過酷なお話……。ごめんね? そんなこと話させちゃって……」
「なに、気にするな。俺が気にしていないんだからな。壱を巻き添えにしてしまっているのは申し訳ないが」
「俺のことも気にするな。玉を見つけたからには最後まで責任は果たすつもりだ」
どうやら壱と玉は血縁ではないらしい。
玉に対して壱が保護者として見えていたけど、そこは当たっていたようだ。
「そうだ。私、学校終わったらバイト行くけど、そこもついてくる?」
気にしていないと言ってもこれ以上話させるのは申し訳なくて、舞弥は話を変えた。
「どこでバイトしてるんだ?」
玉が首を傾げる。手のひらサイズの大きさなのたぬきなので、ぬいぐるみ感が強い。
「個人経営のカフェだよ」
「美味しいものあるか!? 人間のご飯!」
食事処と聞いて、玉の目がキラキラしたのを壱がべしっと張り手を喰らわせた。
「玉、お前舞弥にたかりすぎだ。そんなに人間のご飯食べたかったら、変化した姿でお前も仕事しろ」
教育的指導が入った。
「あ、じゃあうちの面接受けてみる? 今私と同じ時間帯募集してるんだけど」
「……仕事したら人間のご飯食べられるようになるか?」
こてん、と首を傾げた玉の姿はただ可愛かった。
舞弥は撫で繰り回したくなるのを押さえて言った。
「バイトとして採用されて、ちゃんとお仕事してお給料もらえたらね」
「やる!」
玉が、キラキラした目で挙手した。
「玉、そんなに人間の食べ物好きなの?」
「人間はぐるめだからな。美味しいものを追求していくから、ずっと同じものを食べるのとはわけが違う。俺は新しいものが好きだ!」
「じゃあ気合入れて仕事しないとね」
「おう! ふっふー、やるぞー! 人間のご飯食べるぞー!」
ウキウキと体操のような行動をしだした玉。
「壱、ありがとね」
舞弥はこそっと壱に礼を言った。
「いや、本気で迷惑かけまくる前にと思っただけだ」
壱は、ちょっとだけため息をついた。