「……なんだこれ」
高校生の朝倉舞弥(あさくら まいや)は思わずつぶやいた。
夜、バイトを終えて帰宅すると、自分の住んでいるアパートの下に毛玉が転がっていた。
二つも。
街灯を頼りに見ると、ひとつは白っぽく見えて、もう一つは黒っぽい。
大きさは成猫が丸まったくらいだろうか。
舞弥はスカートを押さえつつしゃがみ、やはり転がっていた木の枝で片方をつついてみる。
「う、うう~」
うなり声が聞こえて、びくっと肩が跳ねた。
(え、生き物? 猫か犬?)
しかし顔も見えないし、毛玉としか表現できない。もこもこである。
舞弥はもう一度つついてみた。
「む~……お腹、減った……」
(喋った!? 人語? 日本語、だよね……?)
あたりをきょろきょろとするが、誰もいないし、この毛玉から聞こえてきたように思う。
「あ、あの~?」
恐る恐る舞弥も毛玉に話しかけてみた。
「ごはん……」
哀しそうな声で、片方が言った。
どっちから聞こえたかは判別できなかったが、先ほどと同じ声のように聞こえる。
舞弥がそっと触れると、ころりと転がったそれの顔が見えた。
「……たぬき?」
である。白い筋がないので、ハクビシンではない。
(ええー、たぬきって触っていいのかな……。餌付け……はまずいよね。ってか喋るたぬき?)
迂闊なことはご近所問題に発展しかねない。
(う~ん……。………)
舞弥は悩んだが、回復したらちゃんと山に帰そうと決めて、カバンに手を突っ込んだ。何もなかった。
「やばっ、今日はお菓子食べて来ちゃったんだ」
カバンに入れているお菓子を、今日はバイト先の休憩時間に友達と食べてしまっていた。
(~~~仕方ない!)
毛玉と毛玉を掴んで(ぐえ、と聞こえた気がしたが、ほかの住人に気づかれないうちに部屋に入らねばならない緊張感で聞こえなかったことにした)、音を立てないように階段をあがり二階にある自分の部屋に滑り込んだ。
「ふ~」