「ほらお前も」と促され、女が渋々私に手を当て、瞬時に離した。
 その間にも水はどんどん作られ、ついに「頭」まで到達する。私の「両目」から水がしたたり落ちた。
「どういう仕組みなのかしらね?」
 女が顔をしかめる。
「俺も詳しくは分からないが、ネガティブな時とポジティブな時とでは、手から出る成分が違うらしい。ネガティブな時に出る成分が電力に変化するみたいだ。人間のネガティブな感情を吸い取って、水蒸気を水にしているらしい」
「ふうん。じゃあ、『正しい時』に触っても、何も起こらないってこと?」
「理論上は」
 男が肩をすくめた。私の「目」からは、生成された水が流れ続けている。
「やっぱり、泣いてる姿って汚いし、みっともないよね。どうしてこんな精巧に作っちゃうんだろう。胸のスイッチみたいなところはむき出しだけど、服まで着てるし」
 女が後ずさりして、私から目を背けた。
「機械っぽく作ったら意味ないだろう。『正しくない』人間に、『自分は正しくないことをしているんだ』と自覚させるためのものなんだから」
 男が言う通り、私の姿はあえて人間に似せて作られている。
 ただし、首や手や足などあらゆる関節は動かないし、目、鼻、口、耳も単なる空洞にすぎない。私は水を流すだけの置物なのだった。