「俺は普段なかなか寝付けないから、いつも睡眠薬を飲んで眠っていたんだ。けどある日、その薬が見当たらなかったんだよ。テーブルに置きっぱなしにしておいたはずなのに、どこにも見当たらなかった。おかしいと思ったよ。そこで、俺は考えてみたんだ。もしかしたら宏太も、学校の不安で眠れなくて、困っていたんじゃないかってな。けどそれが本当だったら、俺はまずいことをした。本来なら、ちゃんと見えないところに保管しておかないといけなかったんだ。俺は、宏太が睡眠薬を飲んでいることを知りたくなくて、憶測の域で止めておきたくて、宏太には聞けなかった」
 お父さんは前だけ向いて、滔々と話している。
 「宏太は今日、きっと不安が募って辛かったんだろ。徐々にコップの中を水が満たしていくかのように、頭の中が不安でいっぱいになったんだろ。いっそのこと寝てしまいたいと思ったんだろ。だから俺の睡眠薬を飲んだ。けど、眠れなかった。そうだろ? だから、散歩に行くなんて言い出したんだ。身体を動かしたら眠れるかもしれないって思ったんだ」
 きっと、図星を突かれたのだろう。宏太は俯きながら、唇を噛み締めていた。頬を涙が流れた。
 「……ごめんなさい。お父さん」
 「いや、俺の注意不足が引き起こしたことだから、悪いのは俺だ。ごめんな、宏太」
 「……うん」
 「あと、もう一個、謝らないといけないことがある」