「ずっと傍で支えてくれたあなたが好きです」

そう彼女は僕に向かって言いました。

いや、正確には僕の兄に言ったはずです。

彼女と兄は1年前、事故にあいました。
そのときに彼女は両目が失明し、兄は死亡しました。

でも、そんな事実、彼女は耐えられない。
もしかしたら兄の後を追ってしまうかもしれない。

そんな思いから僕は彼女の前で兄の演技を3年間続けてきました。

正直言うと、僕は彼女のことを心から愛している。
でも、彼女は違う。
彼女が愛しているのは僕では無い。

だから、ここで無責任に兄のフリをして「はい」とは言えませんでした。

(そろそろ潮時か)

兄のフリをするきっかけは彼女ことを思っていたから。でも、今は彼女と一緒に居たいと思ってしまう自分のためであることが僕は否定できません。

これでもう終わろう。今日で最後だ。
彼女と別れを告げよう。

もう、事実を知ったとしても彼女は立ち直ってくれるほど回復した。

もう兄のフリをする理由はない。

「……すみません。実は僕はあなたの愛する人ではありません」

「ええ、知っています」

僕は耳を疑いました。

「あの人がもう。この世に居ないことは知っています」

「じゃあ、なんで……」

「あなたが私を思ってしてくれている行動が心から温まるものだったからですよ。だから、この言葉はあの人ではなく゛あなた゛に送ったものです」

「……本当に僕が受け取ってもらってもいいのですか?」

「ええ。きっとあの人もそれがいいと言っているはずです。私はあなたのおかげでここまで回復することができ、生きて来られたのです。私は誰でもない心から優しいあなたがいいのです」

「……僕でよければ」

溢れる涙をこらえることができず嗚咽まじりのその言葉は、
久しぶりに発した゛僕の゛言葉でした。