「私のことは忘れて幸せになって」

彼女は病室のベッドの上で僕にそう言った。

彼女と僕は家が隣だったから小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。

彼女は昔からわがままな人だった。
きっと僕ならいいと思っていたのだ。

小学校6年間を毎日のように二人で遊んで過ごし。

中学校の時に僕から告白して交際が始まった。

高校は彼女と同じところに行くために必死に勉強した。

大学生になってから同棲も始めた。
もちろん親公認のである。

そうやって幸せな日々を過ごしてきた。

結婚だって目前だと言うのに彼女から末期の癌が見つかった。

「お菓子持ってきてくれない?バレなきゃ大丈夫だから」

入院生活が始まってからというもの、彼女は変わらず、僕にわがままを言っては困らせてその様子を楽しんでいた。

今思えばきっと、僕の不安を少しでもやわらげようとしてくれてたのだろう。

しかし、彼女の容態は悪化する一方だった。

そして、昨日彼女は息を引き取った。

彼女の最期。おやすみと言って僕の手から彼女の手の力が抜けていったあの感覚がずっと忘れられずにいる。

彼女の死から2ヶ月が経った頃。

僕はショックで部屋に籠り切りになっていた。

でも今は彼女の両親や父さん母さんのおかげで僕は社会復帰できるほど回復した。

明日からまた新しい仕事に就くことも決まった。

今日は彼女の両親から彼女が僕に残した形見を貰いに行く約束だ。

既に渡されるものは渡されたと思っていたが
彼女の両親は僕が持っていた方がいいと言って机のたなの深くから出てきた日記を渡してくれた。

中を開いてみると今までの僕との思い出がそれはびっしりと書き込まれていた。

懐かしさと寂しさを覚えながら読み進めていくとあるページで日記が終わっていた。

そのページを見て思わず涙がこぼれ落ちて止まらなかった。

『本当は忘れて欲しくなんてない……』

弱々しい掠れた字で書かれていた。

本当に君はわがままな人だ。

私のことなんて忘れろなんて言ったくせに……。

僕は大きな声を上げてしばらく泣いていた。