『さくらね、生まれ変わったらまたパパとママのところに産まれるんだ』

 あれは、来世で永遠を約束した恋人ではなく、再会を待ち望む母と子の記憶だったんだ。
 会えばすぐに分かる。姿形は変わっていても、脳が、細胞が覚えている。

 ようやく、しっかりと思い出せた。

「いきなり、ごめんなさいね。一気に感情があふれちゃって、つい」

 必死に首をふりながら、ずびんと鼻をすする。

「もう一度、会えて……、嬉しいです」
「あれから、頑張ったのね」

 白味を帯びたピンクベージュの唇が、優しく微笑む。お揃いの色。使っていてくれたんだ。
 頭をなでられて、胸の奥がギュッと苦しくなる。
 さくらの記憶が、鮮やかに流れていく。まるで、忘れかけていた昔の映画を、久しぶりに見返したような。

 やっと見つけたよと、五歳の彼女が、胸の奥でささやいている。
 
「間違ってなかった。勘違いじゃなかった。先輩は……やっぱり、運命の人だった」

 今度は、夏芽先輩に飛びついた。同じ匂いがしていたのは、家族だったから。
 優しく包み込むように、そっと手が添えられる。

「十歳離れてるから、会ったことはなかったけど。小春が……俺の姉さんって、ことになるのか」

 複雑そうに言葉を探しながら、夏芽先輩がつぶやく。

「今の私は小春だよ。十九年、梅野小春として生きてきた。もちろん、これからも。さくらの時の記憶も少し残ってるから、普通の人とはちょっと違うけど。夏芽先輩は、私を好きじゃなくなったの?」

 そのまま見上げると、神妙だった先輩の面持ちが、フッと柔らかくなって。

「そんなわけないよ。すげえなって、逆に、嬉しい」

 不安をかき消すような笑顔に、胸が熱くなる。
 先輩と出逢うまで、何かを好きだとか、夢中になる気持ちがわからなかった。
 お父さんもお母さんも大切だし、大好きだけど家族は別で。何か特別なものを、ずっと探していた気がする。
 黙って見ていた先輩のお母さんが、私たちをギュッと抱きしめる。

「小春ちゃん、産まれてきてくれてありがとう。本当に……ありがとう。おかえりなさい」

 わんわん泣く私の横で、二人まで声を震わせている。
 両親が見たら、おかしな光景に思うのだろう。でもこの奇跡を話したら、きっと一緒に喜んでくれる。

 和室に飾られている女の子の写真が、鏡に反射してキラリと光った。まるで、私と同じ雫を流すように。

「これからも、よろしくね。ずっと、ずっと」

               end.