「天国ってさ、ほんとにあるのかな」
映画を見終えたとき、サークル仲間の一人がそんなことを言い出した。ちょうど、死後の世界をテーマにした作品だったからだろう。
部室を出て廊下を歩きながら、「死者の国はあるんだよ」とか、「俺はないと思うぜ。人間死んだら終わりだよ」なんて意見が飛び交う。
後ろを行く私たちは、会話に参加しなかった。黙って聞いている夏芽先輩の横顔を、チラリと盗み見る。
なにか言いたそうにしているけど、唇は固く結ばれていた。
「彼岸世界ってさ、俺たちのいる地球よりも、何倍もの速さで日常が進んでるんだよ」
二人きりになって、ちょうど車へ乗り込んだところ、夏芽先輩がぽろりと言葉をこぼす。
さっきの意見交換の続きをするかのように、突然言い出したのだ。ふと思い出して、なのかもしれない。
「なんか、まるで見てきたような言い方だね」
ブルルとエンジンをかける音が、違うと否定しているようだ。
「そうじゃないけど、生まれ変わりってあると思ってて。えっと、前世を覚えてるわけじゃないけど、小春の言うことも信じてるんだ」
上手く説明できないけど、と付け足しながら、私たちはゆっくりと加速していく。
「うん、ありがとう。バカにされるかなって、ちょっとは怖かったけど、夏芽先輩はそんな人じゃないってわかってるから」
窓を開けたら、ひんやりした風が吹き込んできた。
気持ちいいねーと、外の景色を見ながら考える。
ーー彼岸世界。そのワードが、私には妙に引っかかった。
その単語を使う人は他にもいるだろうし、特別おかしなことじゃない。
だけど、たしかに私は【そこにいた】。
前世、私が死んで夏芽先輩と別れてしまったあと、その彼岸世界と呼ばれる場所で過ごした時期がある。
病や不慮の事故など、自分の意思ではなく旅立った人は、希望によって生まれ変わることができるのだ。
私は、もう一度、人となって先輩と巡り会うために頑張っていた。詳しくは覚えていないけど、強い意思があったの。
必ず、あなたを見つけ出すって。今度こそ、一緒に幸せになるんだって。
映画を見終えたとき、サークル仲間の一人がそんなことを言い出した。ちょうど、死後の世界をテーマにした作品だったからだろう。
部室を出て廊下を歩きながら、「死者の国はあるんだよ」とか、「俺はないと思うぜ。人間死んだら終わりだよ」なんて意見が飛び交う。
後ろを行く私たちは、会話に参加しなかった。黙って聞いている夏芽先輩の横顔を、チラリと盗み見る。
なにか言いたそうにしているけど、唇は固く結ばれていた。
「彼岸世界ってさ、俺たちのいる地球よりも、何倍もの速さで日常が進んでるんだよ」
二人きりになって、ちょうど車へ乗り込んだところ、夏芽先輩がぽろりと言葉をこぼす。
さっきの意見交換の続きをするかのように、突然言い出したのだ。ふと思い出して、なのかもしれない。
「なんか、まるで見てきたような言い方だね」
ブルルとエンジンをかける音が、違うと否定しているようだ。
「そうじゃないけど、生まれ変わりってあると思ってて。えっと、前世を覚えてるわけじゃないけど、小春の言うことも信じてるんだ」
上手く説明できないけど、と付け足しながら、私たちはゆっくりと加速していく。
「うん、ありがとう。バカにされるかなって、ちょっとは怖かったけど、夏芽先輩はそんな人じゃないってわかってるから」
窓を開けたら、ひんやりした風が吹き込んできた。
気持ちいいねーと、外の景色を見ながら考える。
ーー彼岸世界。そのワードが、私には妙に引っかかった。
その単語を使う人は他にもいるだろうし、特別おかしなことじゃない。
だけど、たしかに私は【そこにいた】。
前世、私が死んで夏芽先輩と別れてしまったあと、その彼岸世界と呼ばれる場所で過ごした時期がある。
病や不慮の事故など、自分の意思ではなく旅立った人は、希望によって生まれ変わることができるのだ。
私は、もう一度、人となって先輩と巡り会うために頑張っていた。詳しくは覚えていないけど、強い意思があったの。
必ず、あなたを見つけ出すって。今度こそ、一緒に幸せになるんだって。