俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

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 喫茶店で苅谷と別れた後、柳生は近くのコンビニで官製ハガキ一式を購入した。陽は依然高く、強い日差しが照りつけている。背中から聞こえる「ありがとうございましたー」に押されるように店から出たところで、思わず天を仰いだ。

「なんと書けばいいのかも分からんのになぁ……」

 本格的な夏が来たら、もっと暑くなるのだろうなと思ったら、じっとり汗ばんでくるさまに憂鬱を覚えて、つい一人愚痴ってしまった。
 喫茶店からずっと考え続けているのだが、手紙の書き出しについてはまだ悩んでいた。苅谷が、別れ際こう言っていた言葉を思い起こした。


――君は肩に力が入り過ぎる男だから、そういった全てをとっぱらって、まずは素直に書いてみなさい。それがちっともつまらない文章であっても、そっけない少しの言葉の羅列だったとしても、それは手紙になるのだから……


 まるで何か知っているような口振りだったが、苅谷という男は直感でおおよそを掴んでしまうタイプの人間でもある。柳生が語った事実以外を彼が知らないことは確かであるし、それ以上の真実を知り得ないのも本当だろう。