俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

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 柳生が作家としてデビューした後にできた友人の一人に、苅谷(かりや)というライターがいる。現在は、政治関係の記事を担当しているのだが、歳は柳生よりも十歳以上若かった。

 刈谷はすらりとした長身の細身で、なおかつ若作りの容姿はもっぱら女性受けも良かった。活動範囲は幅広く、サーフィンやスノーボードといったあらゆるスポーツに長けているのも特徴だ。

 ラーメン屋の帰りの急な連絡だったのだが、苅谷は翌日に会う約束をしてくれた。三日後には仕事の用でフランスへ行く予定があるのに、「その前にちゃちゃっと君の悩みに対するアドバイスをしてあげたいと思ってね」とのことだった。

「そもそも、君から相談事を持ち掛けられる日が来るなんて、想像していなかったから大変心配もしているんだよ。君の心を重くしているその気がかりとやらについては、早々になんとかしてやりたいものだね。なに、時間はたっぷり取ってあるから、すっかり僕に話してくれて構わないよ」

 待ち合わせの当日、珈琲喫茶の奥の席で、苅谷は優雅に足を組んでそう切り出した。