俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

「先輩、いちおう訊いておきますけど、学食でメガ定食をペロリと食べた後、購買で売られていた巨大プリンも平らげていましたよね?」
「店長、僕は最後に餃子で締める予定だから、よろしくお願いします」
「あ、やっぱり俺の話ってスルーされてる……」

 アルバイト君が、そう言って静かに泣いた。店主が「全く、調子がいい奴め……」と、水崎に半眼を向ける。

「辛みそラーメンを頂こう」

 柳生は、壁にかかっている手書きメニューの一つを見てそう言った。店主が「あいよ」と気前のいい声で応えて、アルバイト君の尻を叩いてさっそく調理を始めた。
 柳生は、水崎から隣一個分を開けたカウンター席に腰かけると、アルバイト君が持って来てくれた冷水を一気に喉に流し込んだ。手拭いで火照った顔と首の後ろを冷ますように拭っていたら、それを楽しそうに眺めていた水崎が「お疲れ様です」と言って、コップに冷水を継ぎ足した。

「お仕事ですか?」
「まぁな」

 柳生は短く答えた。店内に流れているラジオは、本日と明日の天気予報を伝えていた。しばらくは、安定した晴れの日が続くのだそうだ。

 店主とアルバイト君、そして水崎のいる店の雰囲気が、柳生の心をじょじょに落ち着かせてくれた。悩みを相談するには、あまりにも知らない仲であるので口には出来そうにはないが、返ってその距離感がいいのかもしれない。

 言葉にするよりも、暖かな雰囲気に身体を預ける方がいい時もある。歩いて汗をかいた効果もあってか、現在抱えている悩みについて客観的に考えられそうだった。
 結論としては、やはり一人で考え続けるのは限界があると思った。凝り固まった考えをしてしまう自分とは、全く別の考え方をする誰かのアドバイスを求めてみてもいいのではなかろうかと、その方法を思案してみた。

 辛みそラーメンが前に置かれて、サービスでゆで卵をつけておいたよ、と店主が笑顔で言った。柳生は店主と、ラーメンを運んで来たアルバイト君に礼を告げ、ある一人の友人を思い浮かべながら箸を手に取った。