俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 スリッパを履いて外に出た。しっとりと絡みつく日中の残り熱のような風が、柔らかく身体にまとわりついて、蒸し暑さを覚えた。

 玄関から少し離れた郵便受けを開けてみると、一枚のハガキが入っていた。

 ハガキというのは、日頃から色々な仕事先やサービス業者から届いていたが、柳生はなんだか嫌な予感がした。そろりと手に取って確認してみると、そこには元妻の名前が記載されていた。


 送り主の住所記載はない。手紙の内容は相変わらず短く、「お元気ですか」から始まり、初夏の季節とあって朝の犬の散歩の静かな時間が心地良いこと、自分は元気で過ごしていること、最後は「お元気でお過ごしください」で終わっていた。


 内容は簡素でどこか素っ気ない。彼女らしい文章と言えば、彼女らしいともいえるが、柳生は途端に家を飛び出したい衝動にかられ、財布と携帯電話をポケットに詰めて家を出た。

 周りに目を向けることもなく足早に通りを抜けて、ひたすら歩いた。次第に身体が火照り、衣服との間にかいた汗がシャツや下着に染み始めた。額に張り付く白髪交じりの髪を、半ば乱暴に後ろへ撫でつける。