俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 捨てることを考えてすぐ、柳生の中に迷いが生まれた。テーブルに置かれた手紙達を遠くから眺めてみると、記憶の中の元妻や娘の、笑顔や匂いや雰囲気といった懐かしさが宿っているような気もした。

 考え過ぎだ。柳生は、自分を叱るように言い聞かせて頭を振った。まるで、この手紙が二人以外の誰かが書いたということを、俺自身が信じたくないみたいじゃないか。
 キッチンへ向かう気力がなくなってしまい、柳生はソファに深く腰かけた。一つの仕事を終えたせいか、はたまた昨日から頭を悩ませている手紙の件が原因か、全身が気だるい疲労感に絡め取られているかのように重く感じた。

 腹は減っているが、出前のピザか寿司でも取って、自宅でだらだらと過ごして早めに就寝したいような気もして、柳生は重い腰を上げると、半ば足を引きずるように固定電話機のもとへと向かった。

 メニュー表の載った出前のチラシはすぐに見つかったが、いつもの習慣で、まずはと思って玄関に向かった。朝と夜、郵便受けをチェックするのが、ここ十年すっかり彼の日課になっていたからだ。