俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 柳生はそう憶測しつつ、原稿は一通り仕上がっていることを伝えた。そうしたら岡村が、途端につまらなそうな口調で「なぁんだ、もう書いたんですか……はぁ」と言って勝手に電話を切ってしまった。

 柳生は苛立ちを覚え、「あいつは一体何なんだッ」と愚痴って受話器を叩きつけた。明るい夕刻の空に一番星か衛星か分からない輝きを眺めながら煙草を吸い、原稿の件で電話したという岡村への愚痴が口から出なくなるまで、夕涼みを続けた。

 空腹を覚えてキッチンへ向かった時、リビングのテーブルに広げられたままの手紙をようやく思い出した。

 人生をすっかりなめてかかり、ひょうひょうと生きているような岡村のことを思うと、手紙の件もそこまで深刻に悩む問題でもないような気がしてきた。確かに気分は悪かったが、実害はないのだからと自分を納得させることは可能だろう。

 誰がどういう目的で、ということについては無視すればいい。だって無関心を突き通せば、これらの手紙は、その辺の広告チラシと同じように捨てることだって出来るはずで――……
 しかし本当に、全くの赤の他人が寄越して来ているものなのだろうか。