俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 どうせ会社の方には「先生の原稿の件で」とかなんとか言っているのだろうな、と柳生はいつものパターンを考えつつ、結局は汗だくでニコニコと立っている岡村を追い払えず家に上げた。


 午後三時の菓子休憩には少し遅い時間だったが、男二人でケーキを食べることになった。デザート持参のおしかけは過去に何度もあったので、岡村は勝手知ったるキッチンと言わんばかりの的確さで準備を整え、柳生を心底呆れさせた。

 確かに「勝手にやれ」とは言ったものの、ティータイムに必要な物の置き位置を、男に把握されているというのも、なんだか気持ちが悪い。


 開店の数時間前から並ばなければいけなかった、と岡村は自慢したが、こいつは一体どんな理由で会社に連絡を入れて、その行動についてカモフラージュしたのだろう、と柳生は気になって仕方がなかった。

 一日五十個限定だという『ブルーベリーのクリームチーズタトル』は、確かに美味かった。だからといって、ケーキを半ホール食べるなど柳生は考えていなかったので、残ったケーキを岡村がすべて胃に収めてしまったのには吐き気を覚えた。